うつ病の方とそのご家族へのアドバイス
うつ状態がひどい時は、とにかく休みましょう。頑張らないことが治りを早めてくれます。
うつ病は神経伝達物質の伝わり方の障害に加えて、さまざまな環境要因が影響することで起きる脳の病です。しかし、いまだに『怠けているだけだ』、『自分に甘いだけだ』、『家族の気を引こうとしているだけだ』といった間違った理解があまりにも多く残っています。その結果、不幸な転帰をたどった方もいらっしゃるかと思います。また、『気合でなおせる』、『もっともっと頑張ろう』など患者さんにとって逆効果でしかない言葉のかけ方をしてしまう場合があると思います。周りの人は『早く良くなってほしい』という思いからそのような言葉をかけることが多いのですが、良かれと思ってやったことが裏目に出てしまうことがあるように、きちんとした認識を持ってうつ病患者さんには接する必要があります。そのことが、治りを早めてくれます。
ご家族の方によくありがちなうつ病患者さんへの感情の表現3つ
・意欲の減退を怠けと指摘し批判する。
・薬を飲まないことにいら立ってしまう。
・症状はわざと出しているに違いないと言ってしまう。
望ましいご家族の対応5つ
・患者さんを励まさないこと。状態が重い時はとにかく『怠けるよう』に伝えます。
・感情的にならないようにします。短気は逆効果でしかありません。
・患者さん自身ができるようになったと感じたことは患者さんに任せてみます。
・いろいろやってみてダメなら、一回接触する時間を減らしてみて、ご家族自身が休めるようにします。
・症状がひどい時は、医療機関を受診させます。
うつ病では、ご家族の対応により、3-4倍の再発率の違いが出ます。
ご家族の方が疲れないために
ご自分のせいで患者さんを病気にさせてしまったと考える必要は全くありません。うつ病の基本的な部分は、脳の神経伝達物質の伝わり方の障害により出現する『からだの病気』です。また、患者さんができることは、無理のない範囲で患者さんにさせてあげることが大事です。このことは、患者さんの自立を促すことにつながります。もちろんできないことは、援助する必要がありますが、あれこれ先回りしてすぐに手伝ってしまうと、ご家族の方が疲れ果ててしまいます。
うつ病患者さんの薬物療法について正しい理解を
精神科の薬は、『癖になる』、『体にとって有害なものだ』などといった批判しやすいイメージがマスメディアにより作られてきました。最近では、正しい情報を流しているマスメディアもでてきましたが、いまだに悪いイメージをお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。薬物療法で理解しておくべきことをあげてみます。
・抗うつ薬は依存性がありません。依存性があるのは、抗不安薬や睡眠薬であり、これらは使用場面を限定し、不要であれば減薬する方針で用いる必要があります。
・効果がなければ、添付文書にそった形で、有効な量の抗うつ薬が必要となります。しかし、効果が出ない場合に、薬の作用機序も考えないような多剤併用は避けるべきです。
・抗うつ薬は慣れることで効果は低下しません。きちんとした効果が出れば、また効かなくなり、薬がどんどんと増えることはありません。
・内服薬の副作用を感じた時や必要性に疑問を感じた時は、遠慮せず、主治医に相談します。
・症状が改善すれば、その後も再発を防止する効果が持続します。一定期間再発がなければ、薬物療法は終了となります。患者さんがよほど薬を飲みたくないと希望されている場合は、中断による病気の悪化や再燃のリスクが上がることを理解し、そのような場合は、すぐに受診する必要があります。
薬を飲むことが一番の目的ではありません。『症状を改善させ、望ましい方向に近づける』こと、また『再発・再燃を未然に防ぐこと』が最大の目的です。そのためのサポート役として、内服するものだという理解が重要です。