躁うつ病の方とそのご家族への心理教育

躁うつ病とうつ病は全く異なるこころの病です。

躁うつ病の方とそのご家族への心理教育

躁うつ病とうつ病とは、名前は似ていますが全く別のこころの病です。うつ病は、意欲がわかなくなり、自分を責め、落ち込みが激しいなどうつ状態を呈するこころの病ですが、躁うつ病では、うつ状態と躁状態を交互に繰り返すこころの病です。これらは、躁状態が生じたことがあるかどうかで区別されます。

躁状態

躁状態では気分が爽快で開放的となり、ウキウキする気持ちになり、ずっと話し続けます。また寝ないでも元気いっぱいであって、注意も散漫となりギャンブルや投資、高い買い物が目立つなど浪費を認めます。また、異性関係が問題になる場合があります。他人に注意されると怒りっぽくなります。これらの症状により日常生活に支障をきたし仕事や勉強ができなくなる場合は治療が必要です。しかし、患者さんご本人はとにかく絶好調であることから自分が病気だという認識がなく治療に結びつかないこともしばしあります。

躁うつ病は双極性障害とも呼ばれます。

躁うつ病は『双極性障害』とも呼ばれます。これからはわかりやすく双極性障害で統一してご説明いたします。うつ状態で受診された場合、双極性障害とうつ病では、その症状に大きな違いはなく、仮に双極性障害だったとしても過去の躁状態が確認できなかった場合、うつ病と診断されてしまうことがあります。正確な診断のためには、過去に躁状態がなかったか、またうつ状態の性状はどうであったのかなど詳細な病歴聴取が必要となります。最近では、明確な躁状態が出ておらずとも双極性障害を示唆する症状があれば、双極性障害に関連する概念として『双極スペクトラム障害』として認識されるようになってきています。ただし、過剰診断といって何でもかんでも双極性障害と診断してしまうことも問題となっていますので、十分に注意すべきです。

双極性障害を疑う所見

以下の場合双極性障害を疑いつつ治療を進めていく必要があります。

・25歳以前のうつ状態の発症

・うつ病を繰り返している場合(5回以上)

・うつ病エピソードの持続期間が短い

・うつ状態の経過中にイライラや興奮、気分の変動が目立つ場合

・産後うつ病

・季節性にうつ状態になる場合

・もともとの性格が自信家で楽観的で後先考えないことが多い方(発揚気質)

・血縁関係のあるご家族に双極性障害の方がいらっしゃる場合

・抗うつ薬にて躁状態が出現する場合

・抗うつ薬の効果がない場合

双極Ⅰ型障害と双極Ⅱ型障害

米国精神医学会での診断基準(DSM-5)では双極性障害を躁状態の期間により区別しⅠ型とⅡ型に分類しています。躁状態の期間が4日以上7日未満の場合を軽躁病エピソードといい、7日以上続く場合を躁病エピソードと言います。1回でも躁病エピソードが出現した場合、双極Ⅰ型障害と診断します。少なくとも1回の軽躁病エピソードと、少なくとも1回のうつ病エピソードを生じている場合は、双極Ⅱ型障害と診断します。

診断に至るまでに発症から平均7.5年(±9.8年)がかかります。

双極性障害は主に20~30歳代までに発症するなどうつ病と比べて若くして発症するこころの病です。躁状態の時は、絶好調であり自分はこころの病ではないからと受診されないケースが多々あり、診断までに時間がかかることが多いです。

双極性障害の生涯有病率

双極性障害は一生のうちにかかる人の割合(生涯有病率)は1.6~3.9%です。日本ではその割合は0.7%と若干低いです。うつ病の患者さんのおよそ1/10程度です。うつ病の生涯有病率では女性は男性の2倍ですが、双極性障害では男女比はほとんど同じです。

双極性障害の経過とその後

双極性障害は再発を繰り返す病です。90%以上の方が再発を繰り返します。平均すると9回程度とされます。また、双極性障害の方の10~20%は年に4回以上も躁病、軽躁病エピソードまたはうつ病エピソードを繰り返す急速交代型を示します。急速交代型の場合をラピッドサイクラーと呼びます。急速交代型は女性に起きやすく、また抗うつ薬の使用により生じる場合があり、注意を要します。双極Ⅱ型障害はⅠ型と比べて、発症がより早く、自殺企図が高いという報告があります。治療を受けなかった場合、躁病エピソードは2~3ヵ月続き、軽躁病エピソードやうつ病エピソードは6ヵ月以上続く場合もあります。ただ、双極性障害ではほとんどうつ病エピソードの期間の方が長いことが特徴的です。双極性障害はうつ病より自殺のリスクが高く10~20%と言われています。これは一般人口の15倍に相当します。

双極性障害の治療および再発再燃を防ぐため

躁状態またはうつ状態にある場合は、速やかにその状態を改善させるための薬物療法を行う必要があります。『自殺を未然に防ぐこと』、これこそがとても重要です。その上で、環境から受けるストレス因をできる限り減らし、環境の変化を小さいものとし十分な休息が取れるようにします。躁状態において、浪費と男女関係が問題となる場合があります。借金を組んでのギャンブルやブランド品の購入、さらに無計画な投資・事業を行いうまくいかずに多額のローンを組んでしまうことがあります。また、男女関係でも、浮気が問題となる場合があります。この場合パートナーが許せず離婚をせざるを得なかったとき、支援者がいなくなることから治療上大きな障壁となってしまいます。借金については、弁護士さんに相談することが必要となり、また男女関係については、SNSや掲示板、出会い系のクラブなどを通じたやりとりを一時的に断ち切るように約束をしていただくなどの対応が必要となります。ただ、過度にご家族が患者さんを監視してしまい両者の関係が悪化してしまうケースや、そのような場合に患者さんご本人もストレスで不安定となられてしまうこともあり、過剰な心配もまた避けていただく必要があるなど適度な対応が求められます。もし、それらが難しそうで、状態も重い場合は、入院加療を検討していただく必要性も出てきます。

躁うつ病(双極性障害)は、気分の浮き沈みが激しく、躁状態およびうつ状態の両相で患者さんご本人はもとよりご家族も苦痛を伴うこころの病です。また、若年から病が始まり、自殺リスクも高いことから、症状の速やかな改善および再発再燃を防ぐために維持期を見据えた治療が必要です。