強迫性障害の方とそのご家族へのアドバイス

強迫性障害では、避けたい状況の回避と強迫行為が悪循環につながります。

強迫性障害の方とご家族へのアドバイス

強迫性障害では、自分にとって不快・不適切だと感じる場面や、思考、イメージが頭に繰り返し浮かぶ(強迫観念)ので、それを避けようとする回避行動が出現します。また、不快・不適切な場面や思考、イメージが頭から離れない場合に強迫行為へと至ります。これら回避行動と強迫行為は患者さんにとっては一種の安全を求める行いです。問題は、これらの行動・行為で不快な感覚から危機回避ができたという誤った認識が生まれ、不快・不適切な場面をより強く意識してしまう結果、日常生活に支障をきたしてしまうという悪循環につながることです。

以下の例を見てみましょう。

例)家のカギを閉め忘れたのではないかと考え、引き返してカギを確認する。また出かけるが、カギは本当に閉まっていたのだろうかと考え、再度引き返しカギを確認して安心する。そして再び出かけるが、確認した後にカギが壊れていたらどうしようと考え、再度引き返しカギを確認する。自分でばかばかしいことはよく分かっていても、気になってしょうがない。気が付けば、何十回も戻って確認しており1-2時間ほどカギの確認に時間を取られた後、遅刻してようやく目的地に到達した。毎回外出する度に、カギの確認をしないと安心できないため遅刻を繰り返してしまう。自身でも困っているがやめられない(注:モデルは架空の人物)。

この場合、『カギを閉め忘れた(ので誰かに侵入されるのではないか)』という強迫観念に対して、強迫行為が『安心するためにカギを確認する』という行為です。日常生活に支障がない程度の確認であれば問題ないのですが、何度も何度も確認しないと気が済まないので日常生活に支障をきたしてしまっています。今後、同じようなことが起こらないように、外出することを避けたり、ほかの家族に出かけるまでカギを監視するように強く求めたりする場合もあります。患者さんはご自身でばかばかしいと分かっていてもやめられないのです。

強迫性障害は発症して受診までの期間が平均10年

強迫性障害は、人口の1-2%の方で認められます。男女比はほとんど同じですが、大人では若干女性に多く、逆に子供では男の子に多いです。発症は、平均して20歳前後ですが、医療機関を受診するのはだいたい30歳前後であることが多いです。この約10年間症状を自覚しながら受診できずに、日常生活がうまくいかないことに耐え、不安を感じながら過ごしていることが多いのです。しかし、こころの病として認識することを避けていらっしゃる方や、症状がひどく外出ができない方もおられ、受診は困難であることが多いです。症状が重い場合には仕事ができず何年も自宅にこもってしまう方もいらっしゃいます。

強迫性障害の方のご家族へ

強迫性障害ではご家族を巻き込んでしまうことがあります。患者さんは、自身の強迫観念とその回避行動を周囲の人にも強制しがちであり、それがかなわないと不安から怒りにつながり、症状が重い方では暴力をふるう場合もあります。ご家族としては、その状況を避けるために患者さんの主張に応じてしまいがちですが、要求がエスカレートしてご家族が対応できなくなると、やがては怒りを増幅させてしまうという悪循環に至ります。また、患者さんと距離をとることができればよいですが、距離をとっても患者さん側から近づいてしまう場合もあります。強迫性障害は、患者さん自身も『やめられない』という苦悩の中にありますが、患者さんの求める要求にこたえ続けることはできないこと、そして患者さんが外出できずに困っている場合やご家族に暴力をふるう場合は医療機関への受診が必要なことを患者さん自身に理解していただく必要があります。また、強迫性障害では、併存疾患としてうつ病を発症しやすいこともあり、その場合自殺のリスクは高いことが知られています。

ご本人ご家族だけで解決しようとせず、まずは医療機関へご相談してみてはいかがでしょうか。治療の根幹は、回避行動と強迫行為を断ち切ることです。主治医と相談し治療を進めることで、外出がよりスムーズなものとなったり、イライラや暴力を減らしたりすることができるようになります。