認知症

※現在当院では、認知症の患者さんの新規での診療はお受けしておりません。

認知症とはどんな病?

認知症とは、物事が正確にとらえられなくなった状態を指します。まず、認知機能という言葉がありますが、これは物事を正確に判断する力のことです。認知症では、生まれてからいったん獲得されたこの認知機能が、後から何らかの影響により失われ、元に戻らなくなってしまった状態です。認知症は、一つの病気ではなくいろいろな病気が原因で起きるものです。認知機能が低下した結果、日常生活に支障をきたしてしまいます。「もの忘れ」が広く知られた症状の一つかと思います。例えば、「昼に食事をしたけど、内容だけは思い出せない」ことも時々あるかと思います。これだけであれば、まだ正常の範囲です。認知症の患者さんの「もの忘れ」では、昼に食事を食べたことすら忘れてしまうのです。つまり、物事の一部ではなく、すべてのエピソードを忘れてしまうのです。認知症の治療では、認知機能が低下する原因となる病気を探っていくことから始めます。そのため、血液検査や頭部画像検査を行います。認知症となる原因の病気は、さまざまです。治療できる病気であれば、その病気を治すだけで、認知症が回復するものもありますが、現代の医学では根治が難しい病気もあります。

認知症の主な症状

中核症状

記憶力の低下(記銘力障害):もの忘れのことです。最近のことが覚えられず、ついさっきのことを忘れてしまいます。エピソードの全てを忘れてしまいます。また、物の置き所が分からなくなった結果、「誰かに盗まれた」といってご家族などを疑ってしまうこともあります。さらに、同じことを何度も聞いてしまいます。

日時や場所が分からない(見当識障害):今日が何月何日の何曜日かわからず、重い場合は、今の季節すら分からなくなります。また、現在自分がいる場所も分からなくなってしまいます。

判断力の低下:

・銀行やATMからお金がおろせなくなり、役所の手続きも難しくなります。

・買い物では、細かな計算ができない結果、金額の大きいお札で会計を済ませようとしてしまいます。

・料理の味付けが濃くなったり、鍋をこがしてしまったりすることもあります。

・よく知っている道が分からなくなり、迷子になってしまうこともあります。

・状態が重いときは、おしっこや便を漏らしたり服を一人で着たりすることが難しくなります。また、ご家族の顔が分からなくなります。

BPSD(周辺症状)

認知機能の低下により、さまざまな周辺症状を引き起こします。

・怒りっぽくなる(易怒性)

・不安、不眠になり、昼夜逆転する。

・気持ちが落ち込む(抑うつ)

・幻覚が見える(幻視)。

・嫌がらせを受けていると感じる(被害妄想)。

・道をさまよって迷子になる(徘徊)。

せん妄

せん妄とは、動揺する意識障害の一つです。一日の中で良い時と悪い時の状態の差が激しく、例えば、午前中は話がかみ合っていたのに、午後から夜間にかけてつじつまの合わないことを言ったり怒りっぽくなったりする状態です。治療を行わない場合、これがずっと続いてしまいます。せん妄は一般的に、脳や体に大きな病気をきたしている場合に生じるものです。脳に異常を認めている認知症では、特にこのせん妄が出やすいです。

認知症の治療方法

認知症は一つの病気からなるものではありません。まずは、認知症の原因となる病気を診断します。次に、認知症の原因となるそれぞれの病気の治療とBPSD(周辺症状)やせん妄の治療の二つに分けて考えます。

認知症の原因となる主な病気

アルツハイマー型認知症

異常なたんぱく質(アミロイドβたんぱく)が脳に蓄積し、正常な脳の神経細胞を死滅させてしまう結果、おもに「もの忘れ」をきたす病気です。病気が進行すると、判断力も低下してしまいます。65歳以前での発症の場合、進行がはやいのが特徴です。「アセチルコリンエステラーゼ阻害薬」、「グルタミン酸受容体拮抗薬」という治療薬を用います。依存性はありませんが副作用もありますので、患者さんの状態とご家族の意見をききつつ処方薬を決めていきます。

血管性認知症

脳の血管がつまったり(脳梗塞)、脳の血管が破れたり(脳出血やくも膜下出血)する結果、神経細胞が死滅し生じてしまう認知症です。元気がわかなくなり、寝たきりですごすことが多くなり、また、怒りっぽくなり融通がきかなくなることが特徴的です。そのほか、もの忘れや判断力の低下も伴う場合があります。根本的な治療薬はありませんが、症状に合わせて、処方薬を調整して症状を改善させます。

レビー小体型認知症

異常なたんぱく質(αシヌクレイン)が脳に蓄積し、正常な脳の神経細胞を死滅させてしまう結果、生じる認知症です。初期には、落ち込みやすく(抑うつ)、便秘、味やにおいが分からない、立ちくらみがあるといった症状から始まります。やがて、生々しい幻覚が見えたり(幻視)、動揺する意識障害がみられ午後から意味不明な言動がみられやすくなり(せん妄)、転びやすく動作が遅くなります(パーキンソン症状)。アセチルコリンエステラーゼ阻害薬という治療薬を用います。

前頭側頭型認知症

ある異常なたんぱく(タウ、TDP43、FUS)が蓄積し、前頭葉や側頭葉と呼ばれる脳の部位が萎縮し機能が低下する病気です。57歳前後から発症します。人格がかわり、さまざまなことに無関心となり、粗暴な言動が目立つようになり、甘いものを好んで食べるようになります。根本的な治療薬はなく、薬で、症状を緩和させます。

BPSD(周辺症状)やせん妄の治療

怒りっぽさや多動が目立ったり、気持ちが落ち込んだりしている場合やせん妄をきたしている場合など症状に応じて、環境調整だけで改善できる場合はそちらを優先させ、それで効果がない場合は、気分安定薬や抗うつ薬、抗精神病薬、漢方薬などの薬を処方します。一般に高齢者では、副作用が出やすく、家族に十分説明の上、これらの薬をごく少量のみ処方しています。注意すべきは、高齢者に「依存性のある」薬(抗不安薬、いわゆる安定剤や睡眠薬)は原則処方しません。これら、依存性のある薬がせん妄やもの忘れをきたすことが分かっているからです。