社交不安障害の方とそのご家族へのアドバイス
社交不安障害は、思春期から若年で発症し、多くは慢性化します。
社交不安障害は、一生のうちに病気にかかる人の割合(生涯有病率)が12%と比較的身近な病です。社交不安障害の方では、中学生前後から、自分に極端に自信が持てなくなり、人前で失敗してしまうのではないか、人に迷惑をかけているのではないかと考え、人見知りが激しくなり、友人や恋人が作れず孤立するようになります。このため、不登校の原因の一つとして問題となる場合があります。また、環境が変わっても症状が持続することが多いです。大学生の場合、大勢での講義には参加できても、少人数のゼミなどでは途端に出席が困難となります。ひどい時はパニック発作を生じたり、学業や就労を避けたりするようになり自宅にこもってしまう方もおられるほどです。周囲の方も、人見知りが激しいだけだという認識であまり深刻に考えることはありませんが、当の本人からすれば、かなりの苦痛なのです。また患者さん自身、こころの病であるということを知らず、受診に至らない場合も実際には多いです。
社交不安障害では50~80%の患者さんに何らかのこころの病が併発
社交不安障害では、うつ病や躁うつ病、アルコール依存症などの併存を認めやすいことが分かっています。社交不安障害が10歳代で発症し、その後に併存疾患が出現する場合が多いです。また、社交不安障害はこれらの併存疾患を悪化させやすく、また慢性化させやすい病です。
社交不安障害は治療により改善可能な病
社交不安障害の生物学的な要因を説明いたします。扁桃体(へんとうたい)は恐怖や不安を察知する脳の部位ですが、扁桃体が過活動を起こすことで、恐怖や不安をより強く感じ対人恐怖が出現するようになります。社交不安障害では、この扁桃体でセロトニン1A受容体機能が低下し、これが扁桃体の過活動を起こしていることが知られています。扁桃体の過活動が改善すれば、恐怖や不安を感じることが少なくなりますが、そのためには脳のセロトニン神経系の機能を高める必要があります。そのための治療薬がSSRIです。SSRIは依存性がありません。SSRIを用いることで、セロトニンの濃度が増えてセロトニン1A受容体への作用が増強され、扁桃体の過活動がおさまり、不安や恐怖を改善することができるようになります。また、社交不安障害では、線条体(せんじょうたい)というある脳の部位でのドパミンD2受容体とドパミントランスポーターの結合能の低下も報告されており、こちらもSSRIを用いることで線条体のドパミンの機能を改善させています。これらにより、対人恐怖を改善させ、より自信がもてるようになります。
できていることに目を向けるように意識しましょう
社交不安障害の方では、まず『自尊心の低下』といって、自分に自信を持つことができません。また、そのことが裏付けされてしまうような否定的な評価にさらされることを極端に恐れがちで、他人に良い印象を与えようと気を使いすぎて疲れてしまうことが多いです。できていないことやうまくいかないことに意識が向かいがちであるため、できていることに目を向けるように訓練をしていきましょう。
いわゆる内気で恥ずかしがり屋なだけでは正常な範囲です。しかし不安や恐怖が著しく強く対人関係がうまく結べなかったり、そうした場面を避けたりする結果、日常生活に困難をきたしている場合があります。この場合、ご本人は相当な苦痛を感じておられるため治療が必要です。また、うつ病や躁うつ病、アルコール依存症といったこころの病が併発しやすいことが知られており、十分な経過観察が必要と言えます。